イギリスは、マンチェスター。どこか弊社の位置する大阪と街の空気感が近くて落ち着くそんな街。
そんな同都市の中心的な駅でもあるピカデリー駅のアーチの下で2014年に創業したブルワリーのご紹介です。
2008年に創業者 Sam Dysonが自転車で世界一周する2年間の旅に出た事からTrack Brewingの歴史は始まります。
1台の自転車、5大陸、25カ国、35,000マイル。
仕事を辞め、西海岸に住む叔父を訪ねる事にし、最初は、アメリカの東海岸バージニア州の海岸からワシントン州を経て、ロッキー山脈を越え、海岸線を通り西海岸サンフランシスコまで4700マイル(約7570km)の横断、その道中で様々なブルワリーと出逢います。
1日サイクリング後、道端でキャンプをしたり小さなモーテルに泊まったりする際、どの州にも、大小に関わらず市や町にブルワリーがあり、そうなって来ると今度は意識的に旅の道中でブルワリーを探し始めます。
そうして、New BelgiumやRussian Riverのようなブルワリーに出会ったり、今まで飲んだ事のないビアスタイルと出会って行く事になります。
このような体験の中で、Samにとってビールは、単に一日を終える魅力的な飲み物というだけではなく、その場に集まって来る人々にも魅力を感じ始めます。
ローカルブルワリーは、大小あれどコミュニティの源であり、様々な分野の人々が一緒に飲んで議論やインスピレーション・探求の場である事をこの旅で感じる事に繋がります。
そうして、ビールは自身を見つめ直し、人との繋がりを持ち、共有する存在にもなって行きました。
その後、Samは友人の結婚式でイギリスに一度帰りますが、醸造関係者の知人もいなかった事から、再び2年半かけて自転車で世界を一周します。
ニュージーランド,オーストラリア,トルコ,南米など…
その過程でも、ペルー・ボリビアやアルゼンチン等で様々なスタイルのビールと出会います。
特にアルゼンチン パタゴニアのバリローチェ郊外の街では、非常に簡素な設備でHoppyなペールエールを造っている姿は自身がブルワリーを始めるキッカケの一つになっています。
その後、イギリスに帰国した頃ちょうどBrewdogはスタートしていて、The Kernelも創業している頃でした。
自身のブルワリーをロンドンでスタートする事を考えていたものの、ロンドンのコストの上昇から一時断念し、Camden Town Breweryの最初のBrewing Teamのメンバーになります。
とは言え、自身でブルワリーを創業するという想いは続き、姉の家があるマンチェスターに訪れた際、自分に取っても馴染みがあり文化の中心地でもあるマンチェスターでTrack Brewingを創業する事を決意します。
(訪問時の個人的な感想としては、Manchesterの雑多な感じというか空気感が何故か大阪を思い出して勝手に親近感に近い過ごしやすさを感じたのを非常に覚えています。
日本で言うと、東京≒ロンドン/大阪≒マンチェスターみたいな…)
その後、1年の準備期間(事業計画や資金調達含め)を経て2014年12月に、1200Lのタンク2基とブルーハウスでTrack Brewingはスタートします。
イギリスの北西部でブルワリーをする以上は、BarやPubで飲まれるような本当に美味しいカスクビールを造る事で、色々なお店に受け入れられる必要があると考えました。
それが、自分達が美味しいビールを造れるブルワリーである事の証明で、そしたら自分たちが好きな物をもっと色々作って良いという事に繋がり、そうなる事が目標だったとSamは言います。
そして2015年2月ようやく最初のビール「Ozark」をリリースする事になります。
アメリカでの経験を再現するようなビール、そしてイギリスでも受け入れられるような度数感の4.4%のペールエールを、自身のビールに求める方向性も込めて。
アーカンソー州とミズーリ州の間にあるオザーク山脈にちなんだ名前になりました。
この「Ozark」は非常に好評を得たものの、よりブラッシュアップしてブルワリー看板になる物を!と造られたビールが、「Sonoma」です。
カスクを飲み続けて来た年配の方~クラフト好きまで楽しめるように設計した3.8%のペールエールは、クロスオーバービールとも言えます。
実際に、2019年2月のマンチェスター出張時に初めて現地でTrackのビールを飲んだのはビアバーでオーダーした「Sonoma」で、極めてモダンな要素を交えつつも、クラシックな要素も感じられて、変に何かが突出した出方をしていない飲みやすさとバランスの取り方で、体に染み込んでいくようなビールだったのを覚えています。
仮に自分がイギリス人だったなら、長旅から帰国してこのビールを飲んだ時の感覚は、日本人が帰国して最初に飲む味噌汁のような感覚に近いんじゃないだろうか?と少し感じてしまった程…
そうして一時、カスクでの販売量は全体の30%も占め、Sonomaがブルワリーの生産量の半分近くを占める程にまで成長し、2台だったタンクは16台に増えました。
現在は創業期から親しいCloudwaterの向かいに位置する工業区画に新たなブルワリーが建設され、3000Lの醸造システムを導入し、アメリカのようにタンクが手に届くような距離にあるTap room併設型のブルワリーへと進化を遂げています。
彼らが、缶詰機を導入して元々Cloudwaterから買い取った瓶詰機から缶に移行したのは比較的最近の話で。
その際、どの機械にするか決める思考のプロセスも中々面白いものがありました。
ビール業界には奇妙で面白い人が沢山いる。
それは、自転車競技でも同じで、自転車でもエントリーレベル~超高級なものが存在する一方で、サービスの不十分な中間層が存在していて、多くのメーカーは高いモデルの仕様変更をした中間層向けの自転車を販売し始めて、人気を博している。
この事と缶詰ラインをある種同じように捉え、今後は中間層向きのラインの需要が高まるはずという事からボルトンにあるMicro Can社の缶詰ラインを決めました。
1時間1500缶詰められる所を1000缶詰めで動かすという慎重さ。。
クラシックとモダンがクロスオーバーしたようなビールも造る一方で、Milk Shake IPAやHazyでも人気を博していますが、様々なブルワリーとのコラボがかなり盛んなTrack Brewing。
Sam自身がアメリカ横断した事もあってか、ローカル・欧州圏のモダンブルワリーに限らず、アメリカのスターブルワリーとも盛んに行います。
コロナ禍中は、Hudson Valley、Green CheekやHumble Seaのビールを友人として輸入し現地のビアギークを楽しませたりと、精力的に行ってきました。 とは言え、コラボと言っても様々なタイプのコラボが存在し、ただラベルを貼りかえただけかのようなコラボはやっても意味がないという明確な想いがそこにはあります。
「Wylam、Garage Beer Co、Deya、Cloudwater、Admundsen、Verdantなどのブルワリーと仕事をして、何も学ばないということはありません。願わくば、彼らも我々から何かを学んでくれていればと思います。ホップやモルト、酵母に関することではなく、水の化学やその他のプロセスに関する専門知識が必要な場合もあります。多くのブルワリーにとって、そう言った知識の源は、新しい友人だったり人脈だったりするもので、そうしたコラボや企画から何を得るのかを掘り下げて、人々に楽しんで貰えるような種類のビールを造る事が挑戦する事だ」と。
Sam Dyson
Projects
Gold Topシリーズは、Milk Sugarのクリーミーさとバランスの取れた穏やかな甘みを素晴らしいHOPと組み合わせたMilkshake IPAを探求するシリーズで、昔イギリスで牛乳配達があった頃に配達されていたクリーミーな牛乳の、瓶の蓋をイメージしてGold Topと言われています。
コラボレーションへの願望から生まれたDigital age
醸造所間でアイデア、理念、プロセスを交換するもので、その結果として多様性、創造性、革新性に富んだビールが生まれます。
旅をすることが不可能になった今、Eメールの受信箱という無限の広がりを使ってアイデアを交換し、それぞれの醸造所の信念と理想を組み合わせた特別なレシピを作っています。
パブで1杯飲む時間は、自分の考えをまとめ、自分の価値を問い、心を整理する時間で、ゆっくりとした時間の中で、自分を見つめ直すことができるものです。
このシリーズREFLECTIONSでは、前を向くのではなく、後ろを振り返りたいと思います。
私たちが、最初にビールに興味を持った美しいエールの背後にあるスタイルやプロセスについて考えてみる。
今日のクラフトビールシーンの基礎を築いた、カスクのパイオニアたちとのコラボレーションで醸造しました。
私たちが楽しんでいたハンドプルパイントへのオマージュとして、各ビールは5Lのミニカスクで再発酵され、自宅で本格的なパイントを楽しむことができます。
The Thirst Timeの目的は、すべてを変えた最初のビールを深く掘り下げること。
今日のビール業界で最もクリエイティブで、境界線を押し広げ、革新的で、総じて素晴らしい人々に話を聞きます。
その瞬間が、現在のキャリアへの第一歩となったかをPodcastにて対談により探ります。
※全部英語ですが、もし聞ける人がいたらメッチャ面白いと思うので是非。
Track Brewingのホームページからも聞けます。興味ある方は、コチラから